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●●しし座流星群2001●●
その成果とこれからの天文

 2001年11月19日未明。日本中の夜空を流れ星が舞った。「しし座流星群」は、精細な観測と緻密な計算により導き出された理論に基づき、私たちの目の前に素晴らしい「ショー」を見せてくれた。私たちはどのようにしてこの「ショー」を見ることができたのか。あらためて検証してみたいと思います。

 「流星群」は、例えばユーミンの歌の歌詞にも出てくるくらい、普段天文と接する機会の無い人でも耳なじみのある言葉です。でも、それを実際に見た人は少なかったでしょう。そして、それがどうして起こるのか、どうして予想ができるのか、そのメカニズムを知る人はほんのひとにぎりであったと思います。今回、「しし座流星群」は、普段星に興味をもっている人のみならず、多くの人々に星との接点をもたらせてくれた天文現象として、大きな意味があったと思います。そして、このことから星に少しでも興味を持ってくれる人が増えることを願って、このページで今回撮影された写真といっしょに「しし座流星群」からわかること、そして新しい疑問について書いてみたいと思います。

●各項目と画像は直接関係しません(笑)ので、写真を楽しみながら興味がありましたら、文章の方もお読みいただければ幸いです。各項目の解説図は・・・もし時間ができたら作ってみたいと思いますが、文中のリンク先にも解説図のあるサイトがありますので、是非参考にご覧いただければ幸いです。

すべての写真はクリックすると拡大したものを見ることができます。



冬の大三角付近を流れる流星たちと流星痕
2分露出の4コマの画像の動画GIF
24mmF2.8レンズ 絞り開放

●しし座流星群とテンペル・タットル彗星の回帰

 流星群が起こる原因は、私たちの地球をはじめとする太陽系の星たちのひとつである「彗星」という天体が大きく関係しています。彗星についてはこちらのページにまとめたものがありますが、私たちが地球から見ることができる彗星たちのほとんどは、上のリンクページに掲載されている写真のように長い尾をたなびかせています。この尾は、彗星が太陽に近づいたときにだけ延びるもので、太陽から遠く離れたところにいる彗星はこのような長い尾になることはありません。1997年に太陽に接近して私たちを楽しませてくれたヘールボップ彗星の画像を見ると、尾の変化の様子を見ることができます。

 この彗星の「尾」の中には、直径数ミリくらいの小さなチリのようなものがたくさん入っていて、これが、彗星の通り道にばらまかれます。このばらまかれたチリの中に、たまたま地球が通りかかることによって、「流星群」が起こります。

 しし座流星群は、「テンペル・タットル彗星」という彗星がその大もとで、約33年に1回太陽に近づく「周期彗星」と呼ばれる彗星です。これまでにもテンペル・タットル彗星が接近した年には毎回世界のどこかで大流星雨を観測しており、前回この彗星が太陽に接近した1999年の前後に再び大流星雨が見られるだろうと、研究者たちも予想をしていました。

 彗星がもっとも地球に近づいた1998年には、世界中で流星雨を期待した多くの人が空を眺めました。しかし、予想より少ない出現しか現れませんでした。ところが、翌1999年には、これまで予想されていた極大の時間より約1日も遅い日本時間18日午前11時ごろに、ヨルダンで1時間に3000個もの流星が観測されたほか、エジプトやヨーロッパで流星雨を観測した場所があったのです。

●ダストトレイルの存在

 この彗星の残していったチリは、彗星の通っていった軌道上に帯状に連なっていると考えられていて、これを「ダストトレイル」と呼ぶようになったのは十数年くらいの前からです。1983年にNASAが打ち上げた赤外線天文衛星IRASが観測したデータの中から、1992年にはエンケ彗星とテンペル第二彗星により作られた細い「ダストトレイル」が鮮明な画像としてとらえられました。

 ダストトレイルは、太陽のまわりを数年から数百年の周期でまわり続けている「周期彗星」と呼ばれる彗星の軌道上に形成されると考えられていて、現在発見されている彗星でもっとも周期の短いエンケ彗星(周期3.3年)などのように、すでに何回も太陽のまわりをまわっている彗星では、軌道上のダストトレイルはほとんど均一にばらまかれていて、そこに地球がたまたま通りかかることによって、毎年同じ時期に流星群が見られると考えられています。このような流星群には、毎年1月4日の未明に極大になるりゅう座ι流星群や、8月12日のペルセウス座流星群・12月13日のふたご座流星群などがあります。これらの流星群は、毎年ほとんど同じ時期に同じくらいの出現数で私たちの目を楽しませてくれます。

 ところがしし座流星群は、これらの流星群のように毎年コンスタントに流星を見せるわけではなく、33年ごとに大出現をします。それも、出現する時間はごくごく限られた短い時間で、必然的に見られる地域も限られてしまいます。この違いはいったい何が原因となっているのでしょうか。


IRASの撮影したテンペル第二彗星と
ダストトレイル (C)NASA
左上の大きな白いかたまりが彗星本体


しし座から飛び出す流星
対角魚眼レンズ17mmF4 絞り開放 露出5分


昇ってきたしし座から飛び出す流星
24mm F2.8 絞り開放 5分露出

●謎その1 33年ごとに大出現・・・

 テンペル・タットル彗星は、いままでにも書いてきたとおり33年周期で太陽のまわりをまわっています。その彗星が地球に近づいたときに流星雨として見られることは理解できるのですが、他の流星群はなぜ毎年同じように出現するのでしょうか?。ペルセウス座流星群の母彗星であるスウィフト・タットル彗星は、周期125年と非常に長い周期を持つ彗星ですが、この彗星が地球に最も近づいた1992年前後にも流星雨が期待されていたものの、いつもより少し増えた程度で、しし座流星群ほどには見えませんでしたし、他の流星群でも、母彗星の回帰と流星群の出現数は必ずしも関係があるとは言えないようです。

 これに対する仮説として、周期彗星が太陽のまわりをまわるようになってからの時間が短いと、彗星から放出された流星の元になる物質により作られるダストトレイルは、まだ帯状には形成させずに彗星本体付近をいっしょに公転していて、これにより彗星が地球に接近したときだけに流星雨として見ることができると考えることができます。つまり、テンペル・タットル彗星はまだ太陽系をまわりはじめてからあまり時間が経っていないのではないかという考え方ができます。

●謎その2 数時間の短い出現・・・

 1966年のアメリカでの出現のときも、1999年のヨーロッパなどでの出現のときも、その出現していた時間はほんの数時間だけでした。地球の自転の関係で、見られる地域もごく限られた場所だけになります。

 これに対する仮説は、彗星付近をまわっている流星の元となる物質も、上の仮説によると彗星と同じように公転していることになり、太陽系の天体の運行を示したケプラーの法則により、太陽に近づいたときはその物質が細く密集した帯状になることが考えられます。この細い帯の中に地球が突入した場合に、しし座流星群のように短時間に集中した流星雨が見られると考えることができます。


シリウスを貫通した流星
24mmF2.8 絞り開放 5分露出


八ヶ岳に降り注ぐ流星
24mmF2.8 絞り開放 5分露出 ガイド撮影


八ヶ岳に降り注ぐ流星
24mmF2.8 絞り開放 2分露出 固定撮影


八ヶ岳に降り注ぐ流星
24mmF2.8 絞り開放 10分露出 固定撮影


家庭用ビデオカメラで撮影された
流星群の映像のダイジェスト版
全部で10個の流星が写っています
歓声も一緒にお楽しみ下さい
(MP4 Movie 2.4MB)

●観測・計算・理論・検証・そして技術の向上

 これらの仮説を理論として打ち立てたのが、イギリスの天文学者デビッド・アッシャー氏と、オーストラリア サイディングスプリング天文台のロバート・マクノート氏です。アッシャー氏は、前回しし座流星群が大出現した1966年生まれの若手の研究者です。ケンブリッジ・オックスフォードなど一流の大学で太陽系天体の研究を続け、最近は地球に衝突する可能性のある天体の研究のため、イギリス国内ではアイルランドにアーマー天文台に所属するほか、日本スペースガード協会(本部 岡山県美星町)にも研究者として来日しています。

 アーマー天文台のサイトには、両氏が発表した論文といっしょに、1966年と1999年に大出現が見られ、1998年に見られなかったことに対する仮説と、その理論について解説図とともに説明されています。この理論は、これまで偶発的にダストトレイルの濃い部分が地球に接近すると起こるとされていた流星雨を、精細な観測と高精度な計算により事前に予想できるという画期的な理論だったのです。

 前回しし座流星群が出現した1966年から今回の大出現までに、天体観測の技術は飛躍的に向上しました。特に大きく発達したのが計算能力です。太陽系の天体の運行は、太陽を中心にそれぞれの天体の質量と重力により互いに干渉し、干渉されながら長い年月を経てきています。コンピュータが発達する以前の天文学では、これらの天体の運行による影響は、全て研究者が計算しなければなりませんでした。しかし、今では高速な計算能力を持つコンピュータを駆使して、膨大な量の観測データを使ってシミュレーションをすることができるようになったのです。

 また、実際に天体を観測する機材の能力の向上も大きな意味を持ちます。以前は天文台の大望遠鏡で撮影した写真から位置を測定して天体の運行を計算していたものが、CCDなどの受光素子を用いた撮像により短時間で大量の観測データの収拾が可能となり、さらに天文台の大望遠鏡でなくともその撮像が可能になったことは、これまで時間と予算にしばられていた研究者にとって、非常に大きな助力となったと言えると思います。

 この理論は、こうした技術を駆使して過去のテンペル・タットル彗星の軌道を、他の惑星などの動きによる影響も含めて精密にシミュレーションし、その時に残していった流星物質が作るダストトレイルが地球の軌道と交わる時間を計算した結果、日本時間で2001年11月19日未明の2:31と3:19にその交点があることを導き出したのです。

 2001年11月19日未明。私たちは日本で、その出現をほぼ予想通り見ることができました。横浜こども科学館のスタッフが観測したデータ(「宇宙・天文ニュース」から見ることができます)によると、ほぼこの理論が示すのと同じ時間に流星のピークを認めることができます。つまり、しし座流星群を自分の目で見た私たちは、この理論の検証を行ったことになるのです。


オリオン座北部を流れた流星
色の変化に注目してみてください
35mmF2.8 絞り開放 5分露出


しし座に達した黄道光
写真の左側から延びる光の帯に注目してください
55mmF1.8 絞りF2.4 5分露出

●検証から生まれる新たな疑問

 こうして、しし座流星群は太陽系天文学の研究の過程でひとつの結果として見ることができました。特に、地球に接近する可能性のある天体を予想して事前に検出するというテーマにおいて、流星群の予想ができるようになったことは、ひとつの成果として評価できると思います。しかし、まだここには多くの矛盾点が存在します。

 ひとつは、出現時間の幅が予想よりかなり広かったこと。ダストトレイルは、その軌道上で太陽に最も近いところ(近日点といいます)で最も幅が狭くなると考えられていて、その幅は地球の公転の速度で1時間〜2時間程度と考えられていましたが、実際には私たちはピークの3時間も前の18日23:00ごろから出現を観測しています。また、ピーク時にはもっとたくさんの出現を予想していました(逆に言うともっとはっきりしたピークがあると考えられていた)が、それほどではなく、数時間にわたってたくさんの流星を見ることができました。これは、ダストトレイルが予想以上に幅が広かったことを意味しています。

 また、しし座流星群の流星は、他の流星と明らかに異なる特徴を持っています。写真を見てみると、流星はほとんどはじまりから終わりまで、虹のような色の変化をしています。1998年の出現で見られた写真でも、これははっきりと捉えられています。これは、他の流星群の母彗星とテンペル・タットル彗星が放出する流星物質に何らかの違いがあることを示しています。テンペル・タットル彗星の軌道を逆計算していくことと、この流星物質がなんであるのかを研究することで、この彗星がどこからやってきたのか、また太陽系の形成とどう関係しているのかを知ることができるかもしれません。

 もう一点。しし座流星群が観測されたこの夜、東の空から大きく立ち上る黄道光を見ることができました。私たち以外にもこれに気がついた方は多かったようでしたが、この黄道光とダストトレイルとの関係ももしかするとあるかもしれません。

 この他にも、いろいろな新たな疑問に対してこれから研究されていくことになると思います。彗星はいまも謎の多い天体です。太陽系ができあがっていく過程で、彗星のような天体がどのようにしてできて、そしてどこからやってきているのか。そして、この流星群を通じて太陽系の構造を考えることによって、私たち地球の宇宙での存在を知り、その環境を考えることは、私たち人間がこの地球でどうあるべきかの根幹を考えるのに非常に重要なことではないかと思っています。

●豊かな想像力は地球を救う?

 今回のしし座流星群の出現を予測できるようになったという事実は、地球に接近する天体の研究の過程でわかった事実を元に、若い天文学者の豊かな想像力が導き出した画期的な理論であったと思います。一部の天文学者の間では、この理論はまったく見向きもされていなかったのも事実でした。日本の太陽系の研究者でもこの理論に興味を示さない人がいましたし、アッシャー氏の地元イギリスの天文雑誌の11月号でも、この流星群のことはほんの1ページくらいでしか取り上げられていません。もちろん、この理論では2001年はヨーロッパでは見られないとされていましたから、その取り上げ方も普通なのかもしれませんが、そこには既存の天文学に対するフレキシブルな考え方の欠落が感じられるのは私だけでしょうか。

 しかし、日本でもアッシャー氏のように地道な研究を続ける若い研究者は、最近少しずつその成果を上げつつあります。先月発表されたLINEAR彗星(S/1999S4)のすばる望遠鏡を使った分光観測によるアンモニア分子の氷結温度推定の成功は、群馬県立ぐんま天文台の観測普及研究員が、独自の研究からあげた成果です。決して予算的にも時間的にも恵まれていない立場の研究者が、このように高い成果を上げることができるのも、やはり豊かな想像力がそこには必要なのではないかと思うのです。


イギリスの天文誌Astronomy Nowと、
ASTRONOMY & SPACEの11月号

(ぐんま天文台では、来たる12月18日(火)に、古在 由秀 (ぐんま天文台台長)による彗星のダストトレイルに関する談話会があります。詳しくは上記リンクをご参照ください)

 マクノート・アッシャー理論によると、来年、満月直前の月があるものの、11月18日未明に北アメリカ大陸で再びしし座流星群が観測されると予想されています。その時の天文学者やメディアの反応ははたしてどうなるか。出現そのものと合せて注目したいと思います。

●最後に・・・

 確かに、精細な観測と緻密な計算がなければ、今回多くの人がこのように流星群を見ることはできなかったかもしれない。でも、その事実の前に、豊かな想像力とそれを検証する熱意が必要です。私たちが普段使っているパソコンも、そんな想像をするための道具として使えばもっともっとすばらしい発見ができるのではないでしょうか。研究者の使っているパソコンと私たちのパソコンは、決してちがうものではないのですから。

 そして、当社の事業が、そんな想像力豊かな世代を築いていくことに少しでも役立てればと思っています。何か新しいことを知ることから、また新たな疑問が起こっていきます。そこから、また新たな想像がはじまり、そして検証をしていく。天文の世界はそんなすばらしい世界なのです。これまで「見た!」「撮った!」で終わっていた天文趣味が、その先のステップに進めるような魅力あるものであることを、もっと多くの方に知って欲しいと思います。そのために、今後もいろいろな事業展開をして行きたいと考えています。

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